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2006年2月17日 (金)

レインマン

原作: バリー・モロー
脚本・演出: 鈴木勝秀

出演: 椎名桔平 (チャーリー・バビット)
     橋爪 功 (レイモンド・バビット)
     大森博史 (ウォルター・ブルーナー)
     朴 璐美 (スザンナ・パルミエリ)

東京グローブ座

 意外にも舞台化は世界初だという。映画の公開は1988年12月。ダスティン・ホフマンが好きなので、出不精な私にしては珍しく映画館で観た。とはいえすでに7年が経過し、あまり細かいところまでは覚えていない。それがかえって幸いしたのか、新鮮な思いで舞台に臨むことができた。

 初めてのグローブ座。中に入った途端、世田谷パブリックシアターによく似ていると思った。寸法もあまり変わらない気がする。舞台や客席の配置は公演によって変わるかもしれないが、世田谷パブリックシアターで最近観た 「クラウディアからの手紙」 の時に較べると、舞台の奥行きはグローブ座の方が狭いが、こちらの舞台は廻る。この廻り舞台が空間の移動をスムーズに示す働きをしていた。「クラウディアからの手紙」 との共通点は、最小限と言っていいほどシンプルな舞台の造りで、道具もほとんど置かれていない。どちらの作品も描こうとしているのは心の動きであってリアルな生活ではないので、道具を極力排することで自然に人物に視線が集中し、ドラマの骨格が浮かび上がってくる。

 キャストがいい。椎名桔平も橋爪功もテレビでしか知らないものの、前から好きな役者さんだった。朴璐美という女優さんは申し訳ないことにまったく知らなかったけど、たった4人の出演者の最後のひとり、大森博史さんは、オンシアター自由劇場の時代から大好きだった人で、残念で残念でならなかったオンシアの解散から早10年、久々の舞台姿をとても楽しみにしていた。

 こんなに切ない話だっただろうか。正直なところ、自分があまり血縁に恵まれなかったせいか、家族の絆といったものをテーマにした話というのは苦手なのだけれど、同時に内心、強い憧れもある。今回は素直にうらやましかった。30年近くも離れていながら、かけがえのない絆を結ぶことができた兄弟の姿がうらやましくてならなかった。

 母の記憶もなく、父にも疎まれ、7年も付き合っている恋人がいながら心を開いて愛することができないチャーリー。椎名桔平にはまさにはまり役。親に愛されなかった恨みが強い怒りとなって彼の中で渦巻いていることが存分に伝わってくる。存在すら忘れていた兄レイモンドが両親に愛されていたことを知り、レイモンドに対しても怒りを露にしていたチャーリーがレイモンドと2人きりの時間を通じて変化していく様子も、決して大げさな表現でなく、ふとレイモンドを見つめる視線や表情に自然に現れていて、とても印象的だった。

 レイモンド役はダスティン・ホフマンの印象が強すぎて、橋爪功はちょっと不利かな、と思っていたのだけれど、どうしてどうして、素晴らしいレイモンドだった。驚異的な記憶力を示す長台詞はさぞかし大変だっただろうに、よどみなく、パニックに陥る場面では思わず抱きしめたくなるような、母性本能をくすぐるレイモンド。橋爪功と椎名桔平という配役でこそ、今回の舞台は成功したのだろう。

 朴璐美さん、細い! ポキッと折れちゃうんじゃないかと思うぐらいに華奢なのに、よく通る声も表情もとても美しい。4人だけの舞台なので、チャーリーが レイモンドをロスに連れ帰る途中で立ち寄るレストランのウェイトレスも彼女が演じている。これがまったくの別人で、コケティッシュな一面も見せてくれた。

 そして大森さん。うれしかったなぁ。ますます素敵になっていた。声のいい人なので、留守電のメッセージだけで登場する場面でさえ素敵。今後の舞台も要チェック!

 ネットトレーディングのためにPCに向かうチャーリーの肩に恋人のスザンナがなにげなく手をふれようとしたその瞬間、チャーリーが無意識にその手をはねのけてしまう場面があって、この一瞬で、他人が自分に触れるのが我慢できないレイモンドとチャーリーの血のつながりを感じる。うまい演出だなぁ、と思った。

 ひとつ気になったのは人称の扱い。レイモンドがまだ早い段階でチャーリーのことを 「おまえ」 と呼ぶ。レイモンドの口から初めてそのひとことが出た途端、強い違和感を持った。英語の you は呼ぶ側と呼ばれる側の関係性になんら影響されないが、日本語はそうはいかない。レイモンドがチャーリーを 「おまえ」 と呼ぶことで、周囲の人間との間に関係性を持つことができないはずのレイモンドがチャーリーを弟として血縁関係を認め、受け入れていることになってしまう。もっとも、レイモンドは自閉症ではあっても、というか自閉症であるがゆえに驚異的な記憶力を持っているわけだから、チャーリー自身が知らない家族の思い出もすべて記憶していることを考えれば、兄として弟を 「おまえ」 と呼ぶことは理にかなっているのかもしれない。それでも、「おまえ」 という呼び方は距離感が近すぎて、まだレイモンドがチャーリーに対して心を開かずにいるうちは、「チャーリー・バビット」  とフルネームで呼ぶか、代名詞を使うにしても  「おまえ」 よりは  「キミ」  ぐらいの方が適度な距離感があってふさわしいような気がした。実際に舞台の上で  「キミ」 と発声すると、印象がまた違うかもしれないけれど。 

 大満足の終演後、もとの映画がまた観たくなった。そしてなにより、椎名桔平がますます好きになってしまった!

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