« 七月歌舞伎座 夜の部 | トップページ | 稚魚の会・歌舞伎会 »

2006年8月30日 (水)

八月納涼歌舞伎

毎年恒例の三部制。久々に通しで観た。

 第一部 1 慶安太平記 丸橋忠弥 

由比正雪らが幕府の転覆を図ったとされる慶安事件に題材をとりながら、事件の概要にほとんどふれることなく、かろうじて一味の連判状を女房に託す場面で吉田松陰の名前が出てくる程度なので、忠弥がなぜ捕らわれるのかが分かりにくく、堀の深さを推測するために石を投げる場面も単なる型のひとつになってしまっているのだが、この場面だけが上演される都合上、致し方ないだろう。ただ、背景が明確でないだけに、忠弥住居の場から捕手が登場するまでの場面が盛り上がらず、緊迫感がない。濠端の場面と立廻りが見どころの芝居にせよ、中盤がだれるのはもったいない気がする。

橋之助の忠弥の酔態は豪快で気持ちがよく、「素敵に酔っちまったぜぇ」 という台詞が生きてくる。茶屋の亭主に四郎五郎、忠弥が上機嫌で酒をおごってやる中間衆に菊十郎、橘太郎、三津右衛門の3人と、もうその場にいてくれるだけで嬉しくなっちゃうような顔ぶれ。

激しい立廻りで怪我人が相次いでいることを知り、心配しつつも期待していた。「どうかもう誰も怪我をしないで」 と祈りながらハラハラドキドキ+ワクワク。果たして、期待通り、いやそれ以上の素晴らしい立廻り。気迫がビンビン伝わってきた。幕切れ直後、降りた幕の向こうで一本締めの音。お疲れさまでした~!

 第一部 2 近江のお兼 

前の幕の立廻りで活躍していた信之・橋吾の両名が引き続き登場し、涼やかな浴衣姿で福助のお兼に挑みかかる。若さだねぇ。花道での立廻りに気をとられている間に、舞台上では馬がアクロバット級の難しいポーズを決めていた。見どころは時間差にしてくれないと。両方ちゃんと観たいのに! 踊りそのものは … よく分からない~。

 第一部 3 たのきゅう 

メディアで一番とりあげられていたのがこの新作舞踊劇。三津五郎の追っかけだったという女優兼作家兼演出家のわかぎゑふの書き下ろし。肩のこらない楽しい一幕ではあったのだけれど、とってもとっても消化不良。というのも、舞台のど真ん中それも肩の高さぐらいの舞台を組み上げ、たのきゅう一座の踊りも染五郎扮する大蛇とのからみもすべてその上で演じられるため、遠くて小さくて迫力不足。あの組み上げ舞台、ない方が絶対よかったと思う。

切り株に柄の長い団扇をいくつか突き刺してドラムに見立てような楽器を巳之助が演奏。これがなかなか耳に心地よい。いつのまにかパパより背が高くなったのねぇ。まだまだ伸びそう。

坂東吉弥の孫が小吉を名乗って初舞台。台詞もしっかりしていて可愛らしかった。劇中の口上で、三津五郎が小吉の初舞台と三津右衛門の名題昇進を披露。三津右衛門を紹介する際に 「日頃から頼りにしている一人」 というひとことがあって、あったかくていい口上だなぁ、となんだか嬉しくなっちゃった。

 第二部 1 吉原狐 

橋之助が珍しく女形で、福助の朋輩芸者。立役があえて女形を演じる必然性があるのかと思いきや、特にそういうわけでもなく、単なる話題作りというか…。確かに新鮮だったし、意外に違和感がない。やたらと大きいけど、それなりにキレイだし。

早口で早とちりで惚れっぽい芸者おきちという役が福助にピッタリ。まさに水を得た魚。だけど、それだけ。なんかこう、表面だけというか、薄っぺらいんだよねぇ。羽振りのよかった男が落ち目になった途端、狐が憑いたように惚れてしまう悪い癖も、その瞬間、大きな目をさらに見開いて狐の手になって固まるから一目瞭然で、客席からは笑いが起こる。確かに可笑しい。でも、ただただマンガチックなだけで、物足りない。『たのきゅう』 もそうだけど、何か月か経ったらどんな芝居だったか思い出せなくなりそうな…。

おきちの父親三五郎役は三津五郎。年が近すぎる違和感を除けば、父親としての情愛といい、娘のおきちより年下の恋人お杉に対する気遣いといい、これはもう文句なし。染五郎の旗本貝塚求女も、よく役に合っていた。落ち目になった時の憂い顔はなんともいえず、おきちならずとも惚れちゃいそう。そうかと思えば、刀を抜いて暴れまでしたのにほったらかしにされ、呆然とする姿がおかしい。初演時の配役は、先代勘三郎のおきち、勘弥の求女に白鸚の三五郎だったそうな。きっとまったく違う芝居だったんだろうなぁ。

 第二部 2 団子売/玉屋/駕屋 

踊りはよく分からないので、まとめてしまう。『団子売』 は、扇雀の杵蔵に孝太郎のお臼。扇雀は今月6役の大活躍だけど、この踊りぐらい高麗蔵や信二郎に譲ってもよかったんじゃ? 『玉屋』 のしゃぼん玉売りは染五郎。水玉の衣裳がさわやか。『駕屋』 では、三津五郎の駕屋三太に小吉が犬のかぶりもの。三太の弁当を加えたままで踊る姿が可愛らしい。三津五郎は、首抜きの浴衣から肌脱ぎになり、刺青も鮮やかで、ねじりはちまきで威勢よく、いつもながらに端正でスカッとする踊りっぷり。小吉クン、いい初舞台になったね。

 第三部 南総里見八犬伝 

扇雀の伏姫、八犬士には、三津五郎、福助、弥十郎、染五郎、高麗蔵、孝太郎、信二郎、松也。華やかできらびやかな舞台だったけど、正直なところ、まだ観てから何日も経っていないのにほとんど記憶に残っていない。壮大な長編をほんの一部だけかいつまんで見せるのだから無理ないのかもしれないけれど、たとえば猿之助の八犬伝には 「ロマン」 というテーマがあり、八犬士の絆もしっかり描かれていた。そういう核になるものがまったくなくて、ただ見かけが豪華なだけで終わってしまった、という感じ。印象的だったのは、松也が冒頭に演じる安西景連の亡霊で、珍しく年嵩の武将姿もハリのある声も松助さんにとてもよく似ていた。

 終わりに 

なんだかマイナス面ばかり書いてしまったけれど、全体的に皆とても楽しそうでイキイキしていたのが印象的だった。芝居としては物足りなかったものの、8月の三部制はこのぐらいの軽さでちょうどいいのかもしれない。

|

« 七月歌舞伎座 夜の部 | トップページ | 稚魚の会・歌舞伎会 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 八月納涼歌舞伎:

« 七月歌舞伎座 夜の部 | トップページ | 稚魚の会・歌舞伎会 »